Q.仕事でクルマを運転していて追突される交通事故にあい、軽いむち打ち症になりました。「自賠責保険」「任意保険」「健康保険」「労災保険」など様々な保険があるようですが、どれを使えばよいのでしょうか?
A.「自賠責保険」と「任意保険」は、加害者が加入している保険会社が加害者に代わって賠償金を支払う制度で、これらは「賠償責任保険」といわれます。「労災保険」と「健康保険」は、ケガをされた人のために、医療費等を公的な保険機関が負担する制度で、これらは「社会保険」といわれます。
勤務中の事故の場合、「健康保険」は利用できませんが、それ以外の保険制度を併用することで、適切な損害賠償を受けることができます。
こうした判断は専門知識が必要となりますから、交通事故の専門家である弁護士にご相談ください。
1 「賠償責任保険」について
加害者が加入している保険会社から保険金が支払われる制度には、「自賠責保険」と「任意保険」があります。
「自賠責保険」は、全ての車の所有者に加入が義務付けられている保険です。ただし、「自賠責保険」が適用されるのは人身事故だけで、支払われる金額も傷害で120万円など限度額が決まっています。
一方、「任意保険」は、加入が義務付けられていない保険で、「自賠責保険」の限度額では補いきれない部分を補償するものです。また、「任意保険」の中には、事故の相手に対する損害賠償金だけでなく、加入者自身の損害を補償する保険もあります。
2 「社会保険」について
「社会保険」とは、事故や災害などの被害者の損害の補填や生活の保障を目的とした社会保障上の保険(公的な保険)をいいます。社会保険の中には、「労災保険」、「健康保険」、「厚生年金保険」、「雇用保険」など様々な種類がありますが、交通事故の被害者にとって頼りになるのが「労災保険」と「健康保険」です。
(1)「労災保険」とは
「労災保険」は、業務上の災害などにより労働者が負傷した場合等について保険金が支払われる制度です。「労災保険」では、治療費の全額が補償され、休業損害は80%が補償されます。
(2)「健康保険」とは
「健康保険」は、業務外の疾病・負傷・死亡・出産に対して保険金が支払われる制度です。皆様も、病院の窓口で保険証を示して治療費を安くしてもらったことがあるかと思いますが、その際には治療費の一部(70%~80%)が健康保険から支払われているのです。
時々、「交通事故の治療では健康保険を使えない」と誤解されている方もいますが、そのようなことはありませんのでご安心ください。
(3)「労災保険」と「健康保険」の使い分け
交通事故でケガをした場合、「労災保険」と「健康保険」を併用することはできません。どちらを使うかは、業務上の事故かどうかで決まります。
つまり、業務上の事故(通勤中の事故や仕事中の事故)の場合には「労災保険」を使うことができ、そうでない場合には健康保険を使用することができます。
3 「賠償責任保険」と「社会保険」の併用や使い分け
このように、「労災保険」と「健康保険」はどちらか一方しか使うことができませんが、それ以外の保険は併用することができます。
例えば、勤務中に交通事故でケガをした場合、「労災保険」を使って治療費や休業損害の填補を受けながら、慰謝料等の残りの損害を加害者の「賠償責任保険」に請求することもできます。
ただし、当然のことですが、同一の損害を「労災保険」と「賠償責任保険」から二重取りすることはできません。例えば、「労災保険」で治療費全額が支払われた場合にもかかわらず、治療費分をさらに「賠償責任保険」に請求することはできません。
このように、「社会保険」と「賠償責任保険」を併用しても損害の二重取りはできませんが、それでもこれらを併用することは被害者にとって大きなメリットがあります。
例えば、「自賠責保険」は傷害の場合の限度額が120万円となっているので、被害者の損害が120万円を超えてしまったら「自賠責保険」から賠償を得ることはできません。そのため、加害者が「任意保険」に加入していない場合などは、先に「労災保険」を使って治療費等の支出を抑えることが大切です。
また、「労災保険」は「過失相殺」の有無にかかわらず支払われるので、被害者の過失割合が多い場合にも「労災保険」を利用することが大切です。
このように、どのような保険制度を使うことができるか、使ったほうがよいかは、損害の種類やケガの状況、被害者の過失割合などによって変わってきます。こうした判断は専門知識が必要となりますから、交通事故の専門家である弁護士にご相談ください。
※こちらもご覧ください(自賠責保険と任意保険のページ)
http://www.okuda-jiko.com/自賠責保険と任意保険/