昨年6月10日、千葉市の路上において、当時20歳の男子学生がイヤホンで音楽を聴きながら自転車を運転していて、横断歩道を歩いていた77歳の女性に衝突し、死亡させるという事故が起こりました。
このとき男子学生が乗っていた自転車はスポーツタイプのもので、時速約25キロで走行していたといいます。いわゆるママチャリの平均時速は12~17キロと言われていますので、一般的な感覚からすると、自転車にしてはかなりのスピードが出ていたものと思われます。
この事故について、男子学生の刑事責任を問う裁判が今年2月23日、千葉地裁において行われました。この裁判において、裁判所は、男子学生に重過失致死罪(刑法211条後段)が成立するとし、禁錮2年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。
重過失致死罪とは、「重大な過失により人を死傷させた」場合に成立する罪であり、「重大な過失」とは、注意義務に違反する程度が著しい場合をいいます。
自転車の運転者は、道路交通法70条により、「ハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通および当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」という義務(安全運転義務)を負っています。したがって、この義務に著しく違反したと認められる場合、「重大な過失」ありということになります。
これまでに、自転車に「重大な過失」が認められた例としては、自転車にけんけん乗りをし、赤信号を見落として横断歩道上の歩行者に突っ込み傷害を負わせた事例(東京高裁昭和57・8・10)などがあります。
では、自転車の運転の際にイヤホンで音楽を聴くことは、「重大な過失」にあたるのでしょうか。
上記の事故例では、裁判官は「高速度で進行し、被害者に気づくのが遅れるなど過失の程度は大きい」と指摘しており、イヤホンをして運転をしていたことそれ自体よりも、高速度での運転であったことや、男子学生が赤信号を見落として交差点に入ったこと、という点が「重過失」の認定の主な根拠となっているようです。
もっとも、イヤホンで音楽を聴きながら自転車を運転することは、道路交通法施行規則の「安全な運転に必要な音声が聞こえないような状態で運転しないこと」という部分に違反するとされる可能性があります。
特に、福岡県では、大音量でイヤホンを使用しながら自転車を運転する行為が、危険な行為として禁止されています(福岡県道路交通法施行細則)。したがって、この行為をすると罰金が科されることになります。
なお、男子学生は、刑事責任の他、被害者の女性の遺族に対して民事上の責任(損害賠償責任)を負うことにもなります。
このように、自転車事故でも、重大な結果を生じさせてしまう危険や、また、それにより重い責任を問われる危険が伴います。事故を起こしてからでは遅いので、日頃から、これくらい大丈夫だろうという考え方をせずに、安全運転を心がけていただきたいと思います。