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あおり運転に対する法規制【動画で解説】

こんにちは弁護士の田代です。

今回はあおり運転に対する法規制についてご説明致します。

 

特にあおり運転について、最近、厳罰化という法改正が進められることになりました。

 

 

そこで法改正の前提として、なぜ法改正が必要となっているのか、この現状について焦点を当ててご説明したいと思います。

 

 まず、あおり運転について最近ニュースを賑わせていて、ほぼ絶え間なくニュースで取り上げられてるという状況かと思います。

 

例えばこの一週間のニュースを見ても、9月10日にまず警察庁が法改正。先ほど言いました厳罰化についての方針を発表しました。

 

さらにその翌日9月11日には、あおり運転で人を死亡させた容疑の被告人、殺人罪に問われてる被告人に対して、大阪高等裁判所から懲役16年の判決が言い渡されました。

 

 更に今日の朝のニュースでも、あおり運転をしてさらにエアガンを発射した容疑の男性について逮捕されたと、そういった報道がなされています。

 

 このようにあおり運転についてのニュースは、この1週間だけでなく、ここ1年間あるいはここ数年間非常によく耳にしているかと思います。

 

問題としてあおり運転とはそもそも何なのか、私がニュースを見る時には、ちょっとこの点から弁護士としてもよく分からない。そして毎回いろんなあおり運転ということで、いろんな被疑者・被告人が報道されていますが、もう何がなんだかよく分からなく、どんな罪が適用されるのかもよく分からなくなってきておりますので、ここで整理したいと思っております。

 

まず、あおり運転とは。ウィキペディアの定義によりますと、「道路を走行する自動車・自動2輪あるいは自転車に対し、周囲の運転者が何らかの原因や目的で運転中に煽ること。これによって道路における交通の危険を生じさせる行為」という風に定義されています。

 

これは法律上の定義ではございません。

そもそも「運転中に煽る」とか、あと「何らかの原因や目的で」という非常に曖昧な抽象的な言葉が使われており、現状としてはこのような抽象的な定義を取らざるを得ないのかな、とそんな風にも思いますね。

 

このような抽象的なあおり運転。これを取り締まる内容としては、一般的には道路交通法上の規制によって取り締まられています。

 

例えば、あおり運転の中で典型的なイメージとしまして、後ろにピタッと車をくっつけて離れないと、こういったものがよくありますが、これは道路交通法上、「車間距離保持義務違反」に該当します。

 

この罰則については、高速道路上で行った場合には3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金、一般道路上・普通の道路でこれがなされた時には5万円以下の罰金、と非常に軽いなと思いますね。

 

またこのほかに、例えば追い越しです。

追い越しとかあるいは急停止。こういったものもあおり運転の典型例と思いますが、こういったものに対する道路交通法上の規制も似たような規制がされております。

 

このような規制ではなかなかあおり運転を阻止する、あるいはあおり運転で危険な結果を生じた者に対しての適正・厳正な処罰と言ったことがなかなか難しいという状況にありまして、そこでここ数年間、刑法上の規制が積極的にとられるようになりました。

 

これはあくまでも、昔から同じように取られてたかと言うとそうではなくて、ここ数年間の間にこういう刑法上の規制というものが取られるのを目にする、そういう印象を持っております。

 

具体的な規制としては、例えば「暴行罪」です。刑法280条暴行罪、これにあたる場合には、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、と法的にはこのようになります。

 

例えば適用例としては、平成30年の4月。昨年ですね。愛媛県で蛇行運転・追い越し運転・急停止などの妨害運転をしたということに対して、このような暴行罪がとられております。

 

また暴行の他に怪我を負わすと、そこまで至ったときには「傷害罪」が適用されるといったことも最近見られます。

この場合には法定刑は大きくなりまして、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金ということになります。

この例としましては、令和元年6月、愛知県豊田市でクラクション等のあおり運転をして、さらに追突したことで前の運転者・被害者に怪我を負わせた、と。こういった事件で傷害罪が取られています。

 

通常、衝突までしないケースでは、怪我をするという事とかその因果関係というものは判断されにくいので、傷害罪がとられるというのは実際に車をぶつけるとか、そういったケースに至った場合に限られるのかなという風に思います。

 

この他に刑法上の規制としましては、「強要罪」とされるケースも最近目にしてきております。

この場合には法定刑としては3年以下の懲役と、適用例としては令和元年の8月(今年の8月)に茨城県で妨害運転をして、さらに車を停止させているというケースで強要罪が取られております。

 

これは確か、ドライブレコーダーか何かの映像で広まって逮捕のきっかけになったというケースで、さらにこの件では、停止させた後にその乗っていた被害者の方に怪我を負わせた、暴行を加えて怪我を負わせたと、そういった点でも 傷害罪でも逮捕されているといったケースですね。最近のケースで話題になっておりましたのでご存知の方も多いと思います。

 

この他のケースとしては「殺人罪」。これがとられているケースもございます。

この場合、ご存知かと思いますが、法定刑としては死刑又は無期若しくは5年以上の懲役ということで非常に重い刑が取られております。

 

5年以上、この「以上」の時には最長で20年という有期懲役の場合は20年、殺人罪の場合は無期懲役とさらに死刑まで法定刑の中に含まれております。

 

この適用例です。これは平成30年7月に大阪府堺市で、あおり運転の末に追突をして、それで被害者を死亡させたと、こういったケースで殺人罪がとられました。

 

これは先程申し上げました、最近高等裁判所でも懲役16年の判決が言い渡されたケースで、これは ”殺意” ですね。要するに殺人罪は、相手の方が死んでも構わないと、あるいはむしろ殺したいとかそういった考えを持って行為をすると、そういった条件がありますのでうっかり亡くなってしまったというケースでは適用されません。

 

そこで、今回もかなりレアなケースなんですけれども、この殺意が問題となった中で、この被告人の言葉ですね。相手を死なせるというような、「これでおしまい」というような言葉、このことから殺意が認定されてるというケースで、広く殺人罪が適用されるということはございません。

 

さらにあおり運転に対して、特別法上の規制です。

これについてご説明しますと、まず「危険運転致死傷罪」。これが適用されるというケースもございます。

 

この場合、法定刑は「致死傷」というのは、まずは怪我を負わせた場合というケースでは15年以下の懲役、 さらに「致死」、亡くなってしまったというケースでは1年以上の有期懲役という法定刑がとられています。1年以上となると最長20年という先ほども説明したケースですね。

 

この危険運転致死、これは殺意を持ってるというケースではないという点では殺人罪との間での線引きがなされてるイメージです。

 

これについては、適用されたケース、非常にレアなんですけれどもとても話題となりまして、皆様もまだご記憶に新しいかと思います。

平成30年の7月に、愛媛県で蛇行運転や追い越し・急停止など、そういった危険な運転をして、その挙句被害者の車を停止させて、停止された被害者の車に他の大型車が突っ込んで亡くならせたと、こういったケースの事件で危険運転致死罪が適用されました。

 

このケースでも、そもそも危険運転致死罪と致死傷罪ですね。

単純に危険な運転というよりも、かなり厳密にその内容については法で決まっておりまして、その行為に該当するのかとか、あるいは亡くなったこととの因果関係があるのかと、こういった点が問題となりました。

 

そのため広くあおり運転に適用されるというようなケースではないという点はまずご承知おきください。

 

これが適用されるとされないとでは法定刑は大きく変わります。

通常の過失運転致死傷罪、つまり殺意がない時で、過失運転行為で人を亡くならせた場合、あるいは怪我を負わせた場合、この場合は法定刑は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金という風に限られておりますので、かなり法定刑には違いがあります。

 

このようなケースの他に、そういえば今日だったでしょうか、あおり運転の末にエアガンを発射して、それで逮捕されたという人については、「器物損壊罪」が問われておりまして、これもエアガンを発射したという特殊なケースで適用されたケースですので広く適用されるものではございません 。

 

このようにあおり運転については本当に様々な法律が様々なケースに応じて適用されてるというのが現状かなと思いまして、こうなっている現状の問題点について整理いたします。

 

まず、そもそも規制対象となるあおり運転の行為、これが明確に定められていない。これが出発点となります。

 

そして元々の典型的な法規制、つまり道路交通法上の規制、あるいは被害者にその怪我を負わせたり、あるいは亡くなった場合と、そういったときの自動車運転過失致死傷というようなその規制では、法定刑として不十分ではないかという点が問題とされます。

 

そのような状況の中で、現在はやや無理をしてケースに応じて刑法やあるいは特別法、危険運転致死傷罪などを適用してるというのが現状であると、これまでざっと紹介させていただきました。

 

このような問題点に対して対応するために、現在また法改正というものが今回提言されているというのが現状となっております。

 

最後に付け加えますと、もう一つ問題点としまして、被害者の救済という点ですね。これは法改正では必ずしも議論の焦点は当たっておりませんが、ここも見落としてはいけない問題点としてあるかなと思います。

 

あおり運転、つまり”車に乗っている”という点では、他の犯罪(通り魔とかそういったケース)とは唯一違う点で、自賠法とか自賠責の適用とかそういった可能性がある。そういう意味で、通り魔とかに比べると多少はましと言えるかもしれませんが、しかし、あおり運転での死亡あるいは怪我をするとか、あるいは車が壊れると、そういったケースはこれまでご紹介しましたように、それなりにあるんですよね。

 

あおり運転は、なぜこういった心理になるのかという点もかなり議論されてるところですけれども、割と普通に生活してる人がカッとなってするとか、そういったことがありますし、また何より車というのは誰もが持ってる、日本の場合には銃器等が規制されてる中で、唯一誰もが持って規制されていない凶器と。この点ですね。まだまだ認識としては不十分じゃないのかなという風に思っております。このような中での被害者というのは、本当にもう誰がなるか分からない。何の落ち度もない小さい子供だってなりうるという現状ですので、やはり、被害者の救済というものにはもう少しにスポットを当てて議論されてもいいんじゃないかなという風に個人的には思っております。

 

またあおり運転被害について弁護士がお役に立てるケースも少なからずございますので、ぜひこういったお悩みがある方については弁護士にご相談いただければと思います。

 

今回はあおり運転について整理させて頂きました。

 

最終更新日:2019年10月9日

 

著者紹介

弁護士 田代 隼一郎 

おくだ総合法律事務所 所属 

平成24年 弁護士登録  福岡県弁護士会所属 

九州大学法学部卒  大阪大学大学院高等司法研究科修了